その全貌が明らかになった坂本龍一8年ぶりのオリジナルアルバム『async』。
みなさんはどのようにお聴きになりましたか?

ここではワタリウム美術館で開催中の『Ryuichi Sakamoto | async』展に来場された方々がアルバムについての思いを綴った「解読」と坂本龍一本人の言葉を残していく「返信」を更新していきます。

また、引き続き『async』発売前に公開していました 坂本龍一の足跡を辿る「予習」、多くの皆さんとニューアルバムを予測した「予想」もお楽しみください。

予習 『宇宙~人類の夢と希望~』(1978年作品)

 この『宇宙』は坂本龍一がソロ・アーティスト、あるいはYMOのメンバーとして世に出る直前の1978年7月にリリースされたアルバムで、ソロ作品という範疇ではなく、レコード会社からの依頼で作曲、録音した企画アルバムという形になる。
 そのタイトル通り、日本での宇宙関連の博覧会開催を記念して、アメリカ航空宇宙局(NASA)に残されていた宇宙開発関係のニュース音声、解説ナレーションなどに、日本の宇宙開発関連の音声を加え、そのバックに坂本龍一が効果音と音楽をつけて発売されたという一枚。
 AB面あわせて30分ほどの作品だが、冒頭のオーロラの音に始まり、最後のアメリカの各惑星探査機の紹介のイメージ音楽に至るまで、坂本龍一いわく「正解のない音を伸び伸びと楽しく創った」ことがよくわかる作品になっている。
 録音はすべてシンセサイザーで行い、効果音やアンビエント音などもあるが、このアルバムのためのオリジナル楽曲や、60年代のヒット曲であるジョー・ミークの「テルスター」のカヴァーは来るべき坂本龍一のテクノポップ時代の青写真のような味わいのある作品になっている。
 無名時代最後の裏方仕事ではあっても、坂本龍一には楽しい印象が強く残っていたようだ。2016年リリースのコンピレーション『Year Book 1971-1979』の企画の際には当初からこのアルバムの楽曲の収録を希望し、実際に本作から音楽的な部分を自らコラージュして21世紀版『宇宙』を再構成した上で収めた。
 同コンピレーションの「ナスカの記憶」収録ともども、新アルバムが電子音楽回帰になる可能性もあるのではないかという根拠になっているとかいないとか。

(執筆:吉村栄一)