その全貌が明らかになった坂本龍一8年ぶりのオリジナルアルバム『async』。
みなさんはどのようにお聴きになりましたか?

ここではワタリウム美術館で開催中の『Ryuichi Sakamoto | async』展に来場された方々がアルバムについての思いを綴った「解読」と坂本龍一本人の言葉を残していく「返信」を更新していきます。

また、引き続き『async』発売前に公開していました 坂本龍一の足跡を辿る「予習」、多くの皆さんとニューアルバムを予測した「予想」もお楽しみください。

予想 毛利悠子

昨年10月、トランプ大統領誕生前夜のニューヨークでお会いしたとき、坂本さんは「毎日、一日中スタジオで作曲している」とおっしゃっていました。いま思えば今回のアルバム制作だったのですね。そのときの、忙しいにもかかわらず、すこしゆったりした坂本さんの様子から、わたしは《十便十宜帖》の「釣便(ちょうべん)図」の、釣りをする仙人の姿を思い出しました。「釣便図」とは、15世紀の中国の劇作家である李漁(りぎょ)さんが「自然に籠ってばかりで、さぞや不便な生活だろう」とまわりの人から言われたときに、湧き水のくみとりや畑仕事など、むしろ自然と共存したほうが10個のべんりなことと10個のよいことを得られるんだよというメッセージを詩にしたものなのだそうです。そのなかのひとコマを池大雅が描いたのが「釣便図」。かわいい仙人が釣りを楽しんでいるシーンです。俗事にわずらわされず「毎日作曲」で得られる豊かさを、次のアルバムでおすそ分けしていただけるとは、なんて贅沢!



毛利悠子
美術家。磁力や重力、光など、目に見えない力を感じさせるインスタレーション作品を制作。
15年にアジアン・カルチュラル・カウンシルのグランティとして渡米。
16年渡英、ヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム、カムデン・アーツ・センターにて滞在制作。日産アートアワード、神奈川文化賞未来賞を受賞。
「コーチ・ムジリス・ビエンナーレ2016」(インド)、「ヨコハマトリエンナーレ2014」(神奈川)ほか国内外の展覧会に参加。